最終更新2021.10.13
今回の地震の震度を地形分類図に落としてみました.震度5強と5弱は主に最も軟弱な沖積層,震度4以上は過去40万年ほどの間に堆積した更新統(中部と上部)の分布域に対応しています.
図5 関東平野における地形分類図に、気象庁による震度をプロットしたもの.
a:火山,b:山地,c:丘陵,d:台地(段丘),e:低地(沖積層),f:海・湖沼
出典:地形分類図はGaNT,震度分布は気象庁による
(https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#11/35.793/139.79/ &elem=int&contents=earthquake_map) 「地震情報」
千葉県北西部地震のように深いところで起こる地震は過去にも起こっているのか,気象庁の震源データを使ってプロットしてみました(図6;堀・杉中作成).基図にあるピンク色の範囲は火山です.また,太平洋プレートとフィリピン海プレートの深さを示すため,弘瀬ほか(2008)の深度図を参考にしました.
対象としたのは気象庁の震源データから,1923年~2007年の地震です.
50㎞,60㎞,70㎞,80㎞,90㎞,の各図を比べてみましょう(図7).70㎞の図を見ると,千葉市周辺で非常に沢山の地震が発生してきたことが分かります.千葉市の北方にも断続的に点の集まりがあります.80㎞ではやや西に移り数を減じています.気象庁発表で、この地震が「太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界付近で、東西方向に圧力軸を持つ逆断層型」と説明されたことがよく分かります.
図7 過去に発生した地震の深度ごとの震源の位置と各プレートの深さ
震源データは気象庁の震源データを利用した.
プレートの深さは弘瀬ほか(2008)による.
地震は1923年~2007年
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引用文献
弘瀬冬樹・中島淳一・長谷川昭(2008)Double-Difference Tomography 法による関東地方の 3 次元地震波速度構造およびフィリピン海プレートの形状の推定.地震 第 2 輯,60(3),123-138.
図2のように、震度5強から震度5弱を記録した観測点は、沖積層の厚いところやその縁の位置に対応します。図2には沖積層の基底高度が等高線で示されていますが、地表はほぼ0m-3㎡なので、大体沖積層の厚さを示していると見ることができます。東京下町の深いところで、沖積層の基底は65-70mに達します。川口市~足立区の一帯では40m前後となります。 図1では、沖積層の分布域を青色で塗っています。
[図の作成には,国土地理院長の承認を得て,同院の基盤地図情報を使用した(承認番号:令元情使,第660号)]
図3は、7400年前頃から5000年前頃に最盛期を迎えた縄文海進の最盛期の図で、その頃どこまで海が入ったかを示します。図1、図2にこの海の範囲を重ねてみるとよく分かりますが、当時、台地の間に広がる内湾の表面には波が立っていたでしょうが、やや深い内湾の底は静かに泥がたまっていく環境が存在し、結果として軟らかい泥の層が堆積し、軟弱な沖積層の主体を形成しました。その後その上を河川が蛇行しながら流れて、砂や泥からなる河成デルタが成立しました。それが現在の生活面になっています。縄文海進時の海面は、最盛期で海抜2-3mでした。現在若干低下して0mにありますが、特に海に堆積した泥層は、ずっと海面下にあります。古い時代の海成層は堆積後に海面がずっと低下して、水分が抜けていきます(脱水という)が、未だ脱水されていないので、軟弱なままにあるということが言えます。
[図の作成には,国土地理院長の承認を得て,同院の基盤地図情報を使用した(承認番号:令元情使,第660号)]
図4は、多摩川の下流部から鶴見川の範囲の図1を拡大したものです。多摩川はかなり下流まで、扇状地性の礫層を運搬しているので、そうした部分では震度3を記録しています。一方大田区や川崎市域では軟弱な沖積層が厚く震度5弱の観測点が増加します。横浜市港北区や緑区は鶴見川の沖積低地が発達するところで、縄文海進の時代に海が細く進入しています。周囲の台地や丘陵の震度4の間にある震度5弱は鶴見川の細くうねった沖積層の谷底部にあたります。
なお、町田観測点がポツンと離れて震度5弱を記録していますが、恩田川の近くで、排水の悪い恩田川の沖積層の影響ではないかと推測されます。
[図の作成には,国土地理院長の承認を得て,同院の基盤地図情報を使用した(承認番号:令元情使,第660号)]
10月7日22時41分頃に,強い地震があり,ケタタマシイ緊急地震速報にビックリされた方も多かったのではないでしょうか.
震源は千葉県北西部(気象庁の深度分布図では,千葉市付近に震央が示されている),震源の深さ75㎞,マグニチュードは5.9でした.
埼玉県の宮代町,川口市,東京の足立区で震度5強を観測しています。気象庁は太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界付近で発生した東西圧縮の逆断層タイプのものと考えています.
広い範囲で,水道管の漏水(管の破裂はないようです),エレベーターの緊急停止,品川駅の停電など鉄道網の混乱,日暮里-トネリライナーの脱輪事故,等々が報じられています.
特に,千葉県北西部のM5.9の地震が広い範囲で震度5強や震度5弱の揺れを生じた点が気になる方がおられるでしょう.
上記の震度5強以外に,震度5弱の地点を挙げると,
以上はほぼすべて,沖積層の分布する地域にあたります.
沖積層は河川が運搬した軟弱な地層とマスコミなどで紹介されていますが,実際には最近の河川堆積物の下に埋もれて、”縄文海進”時の海やデルタに堆積した泥が厚く堆積しているもので,よく豆腐に例えられるほど軟弱な地層となっているところが多いのです.足立区や川口市は典型的で,そうした軟弱な沖積層の厚さは40m~50mにもなります.
この軟弱な部分の堆積物は主に最近1万年間に堆積した,最も新しいものです.
この最新時代の地層が揺れを大きくしたことは間違いないでしょう.
[図の作成には,国土地理院長の承認を得て,同院の基盤地図情報を使用した(承認番号:令元情使,第660号)]
(続く)
参考文献
気象庁>報道発表資料>令和3年10月7日22時41分頃の千葉県北西部の地震について [PDF形式: 1.4MB]
引用文献
遠藤邦彦・小杉正人・菱田量 (1988)関東平野の沖積層とその基底地形.日本大学文理学部自然科学研究所「研究紀要」,(23),37-48.
遠藤邦彦(2015,2017)日本の沖積層─未来と過去を結ぶ最新の地層─,(改訂版).冨山房インターナショナル,415p,475p.
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